日本は、この20年の間に様々な国際的なマスギャザリング・イベント、あるいは各国のVIPが参集する国際的に注目度の高いイベントを経験してきました。WHOによれば、マスギャザリングは、「特定の場所に特定の目的を持ってある一定期間集まった人々で、その国やコミュニティの計画・対応リソースを制限する可能性があるもの」として定義されます。特に計画されたマスギャザリングでは、そのイベントを安全に開催すると共に、地域へ負の影響を与えないような十分な準備が求められます。また、世界的には、健康危機に対する対処能力の底上げを図る取り組みの中で、マスギャザリングイベントの実施における準備は、公衆衛生危機に対する対応能力を向上する機会として重視されています。このようなイベントの実施における準備や対応について、記録し教訓を伝えていくことが非常に重要です。厚生労働行政推進調査事業「大規模イベント時の健康危機管理対応に資する研究」は、そのような目的で2019年に活動を開始しました。
f2013年9月に東京でのオリンピック・パラリンピック開催の決定後、公衆衛生分野においてもさまざまな準備が進められてきました。公衆衛生対策の関心は主に熱中症、自然災害、輸入感染症、テロリズムでした。しかし、開催直前の2019年末に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が発生し、ほどなくしてパンデミックへと進行し、世界の状況は一変しました。結果的に1年延期しての開催が決まりましたが、大会におけるCOVID-19対策が何よりの関心事となりました。さらには感染・伝播性の高い変異株の出現など、対策はさらに難しさを増していきました。開催直前には、東京で感染者が増加し、緊急事態宣言下で大会が開催されるに至りました。パンデミック下でこのような国際的マスギャザリング・イベントを行うという非常にチャレンジングな状況であり、準備にかける時間も限られていましたが、刻々と変わる状況に合わせて、安全に大会を行うための取り組みが進められてきました。
本報告書では、東京2020大会におけるCOVID-19対策について、一連の公衆衛生の取り組みを俯瞰的に記録することを目的として作成しました。国内外で、今後のマスギャザリングにおける公衆衛生対策やCOVID-19流行下での社会活動に役立てられることを、切に希望します。
厚生労働科学指定研究
大規模イベント時の健康危機管理対応に資する研究
研究代表者
齋藤智也